昨今の社会情勢やグローバル化、IT化が進むビジネス環境において、企業は今まで以上に変革の必要性に迫られています。多くの企業は業務の効率化を目指し、絶えず業務改善をおこなっていますが、今あるものを効率化するだけでは限界があります。企業全体で利益向上を目指すのであれば、BPRの考え方が不可欠です。
本記事では、BPRの基本的な考え方や導入事例についてご紹介します。
BPRとは?
BPRとはビジネスプロセス・リエンジニアリング(Business Process Re-engineering)の略称で、現在の業務内容や社内プロセス、組織構造などを根本から見直し、再設計することです。BPRという名称は、ビジネスをプロセスからなるシステムとして捉え、分析・理解・再構築(リエンジニアリング)して利益の最大化を目指すというアプローチから由来します。
古くから継ぎ足された組織構造は歪な形を持ち、部門ごとに細分化され、プロセスがスムーズに繋がっていないことがあります。また、新しいサービスの発展により、過去の最適化が時代遅れとなっているケースもあります。BPRはシステムレベルでの再構築によりそういった問題を解決する活動です。
BPRと業務改善の違いとは?
BPRはときに、業務プロセス改革とも呼ばれます。では、「業務改善」とはどう違うのでしょうか?
そもそも「改善」と「改革」では意味が大きく異なります。「改善」とは「悪いところを改め、より良い状態にすること」を指します。一方、「改革」とは「従来の制度を改め、変化させること」です。現状を受け入れて修正していくのが「改善」で、現状にとらわれず根本から変えるのが「改革」です。
BPRは業務プロセス全体を根本から見直すとともに、製造・開発・管理、サービスの提供方法、社内の人事評価などすべての企業活動を最適化することを目指します。それに対し業務改善は、業務プロセスには変更を加えず、業務のムリ・ムダ・ムラを無くし効率化を目指します。つまり、業務プロセス全体を見直すのがBPR、特定の業務の効率化を目指すのが業務改善といえます。
この違いを正しく理解することで、現状に適した施策を考えられるでしょう。
BPRの歴史
アメリカで生まれたとされるBPRは、1980年代に日本企業の業務プロセスを参考に作られたという背景があります。そんなBPRが有名になったのは、1993年に元マサチューセッツ工科大学教授のマイケル・ハマー博士と、経営コンサルタントのジェイムス・チャンピー氏の共著、『リエンジニアリング革命』がベストセラーになったことがきっかけです。
1993年の日本はバブル崩壊後で、革新的なBPRは国や地方自治体、民間企業が組織改革の考え方として参考にしました。ですが、当時はリストラの助長とそれによる混乱を生んだため、この時期の取り組みはうまくいきませんでした。
BPRの現状
しかし近年、BPRは改めて注目され始めています。日本能率協会が実施した調査によると、対象となった企業の約7割がBPRに取り組んでいると回答しました。この調査ではさらに、業界上位の企業はBPRによる目標達成率が向上し、それ以外の企業の目標達成率は低かったことが報告されています。課題は残りますが、BPRという手法が一般的になっている証拠です。
また現在の日本では、超高齢社会による労働力不足という社会問題や、リモートワークや時短勤務などの柔軟な働き方の実現が後押しし、組織構造を見直すBPRを取り扱う企業は増加傾向にあります。このタイミングでBPRが注目されることは、必然的ともいえるのです。
BPRの進め方、導入方法
では具体的に、BPRの導入ステップをご紹介します。
1.導入の検討
まずは、階層や立場の異なる社員から改善すべき点をヒアリングしていきます。あわせて経営層からは企業戦略に応じた改善点をヒアリングし、それぞれのヒアリング内容を取りまとめましょう。その後、社内を代表した社員、役員で話し合い、企業戦略に沿った目標・目的を設定します。把握できていなかった課題を互いに認識することで、進むべき方向性を共有できます。またこの時期に決める目標・目的は、「社内全体の作業時間を○%削減する」のように求める結果をより具体的にしっかりと確認できる定量的な評価にすることが好ましいです。目標・目的を数値化することで、社員に対してもBPRの方向性を示せるようになります。
つぎに、対象となる業務の範囲、業務改革のポイント(キープロセス)を明らかにします。業務改革のひとつとして業務システムの導入をおこなう場合は、事業システムの再構築単位を意味するBSU(ビジネス・システム・ユニット)まで落とし込み明確化することが必要です。システム導入によって変わる業務プロセスの範囲の明確化は後のステップに影響を及ぼすため、このタイミングでしっかりと把握しておく必要があります。
2.業務内容・フロー・組織の分析
続いて、現状のプロセスによって発生している課題を洗い出し、改善方法を検討します。課題を洗い出す際は、解決の施策が見える方法で実施しましょう。また、課題が多い箇所はじっくりと、少ない箇所は時間をかけずにおこなうことで効率的に進みます。プロセスによって発生する課題は、いくつかの分析方法を用いることで発見できます。ここでは、2つの分析手法をご紹介します。
1つ目は「活動基準原価計算(Activity Based Costing、以下ABC)」です。ABCとは、「活動(Activity)単位」に業務プロセスを分類して、それぞれのコストを算出する分析方法です。業務フローを社員・設備の時間単価や拘束時間などに分解して数値化できます。たとえば「コスト=社員・設備の時間単価×時間×回数」のように分解することで、どの要素を解決することで高い効果を得られるかが検討できます。活動を構成する作業が情報システムなどによって根本的に刷新されればコスト削減効果として数値化でき、目標達成率が測定できるわけです。
2つ目は「バランスト・スコアカード(BCS)」です。BCSとは、企業の戦略・ビジョンを4つの視点(財務・顧客・業務プロセス・学習と成長)で分類し、実行と管理をするためのフレームワークです。
BCSは以下の手順でコスト以外に対する効果を割り出します。
- スコアカードを作成する
- ビジョンを元に具体的な目標を設定する
- 現状を分析し、目標達成までの戦略マップを作成する
- BPRのポイントを検討する
- 施策を実行し、効果を評価する
3.戦略・方針・プロセスの設計
現状を分析して課題を見つけたら、改善に向けた戦略や方針を策定します。その際、初めからやり直すことがないように考えられる戦略をすべて出し、全員が納得できた戦略に決定するとよいです。また、システムや業務プロセスがバラバラになっている場合はプロセスの標準化をおこなったり、業務内容によってはアウトソーシングの導入についても検討が必要です。さまざまな課題を限られた時間で改善することは難しいため、効果の高い施策から優先順位をつけて具体的なプロセスを設計します。
スムーズに進めるためには体制の整備も必要です。社内はもちろん、取引先を含めたメンバー構成や、投資額に対するコストなどの設計が必要です。BPRは企業全体に影響を及ぼすため、社内全体で共通認識を持って推進していくことがとても重要です。各部門で内容を共有し、連携しながら戦略を設計していきましょう。
4.変更内容の実施
具体的な戦略・方針が決まったら、実際に変更すると決まった内容を実施する段階に入ります。ですが、強制的に新たな業務プロセスを導入すると現場部門からの反発を生みます。そこでまず必要なのが、経営のトップがBPRの必要性や目的を社内に共有することです。BPRによって社員自身が得られるメリット(利便性、労働時間の削減など)を示し、モチベーションを向上させることで、施策の実行がスムーズになります。会社全体での会議やWebを活用して社員に浸透させていきましょう。
また、BPRは大規模な変革になるため、膨大な時間がかかります。最終的な目標からそれていかないよう、短期的な目標も立てておきましょう。プロジェクト内で目安となるマイルストーンを設定し、進捗率を都度確認するとよりスムーズになります。
5.モニタリング・効果測定・達成度の評価
施策を実施できたら、効果測定や達成度の評価に進みます。ビジネスプロセスに問題がないかや効果をモニタリングし、問題があれば修正します。各部門の問題や様子、効果を共有し、短期目標や最終目標の達成度を評価しながらBPRを実施していきます。業務システムを利用している場合は、業務状況とシステム情報の両面からのモニタリングが有効です。
BPRは一度実施したら終了ではありません。業務をきちんと振り返り、次の活動に繋げることでBPRを最大限に活かせるのです。
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BPRの事例
最後に、BPRを導入した企業の事例をご紹介します。
岩手県「トヨタ方式を活用した業務改革の取組み」
岩手県では、仕事の効率化、財務改革、生産性の向上が必要になりBPRを導入しました。トヨタ方式のコンサルティングを専門とした会社にサポートを受けつつ、現場からも10名ほどチームを構成して推進しました。ヒアリング結果から、各課に仕事の指示をしている財務課から改革をおこないました。その結果、業務プロセスの見直し、生産性の向上、残業時間の削減といった効果に繋がりました。また、職場が目に見える形で整理され綺麗になりました。
しかし、改革の目的が伝わっておらず、成果が出ないうちに別の改革が始まるなど、課題も生じてしまいました。今後は、無理のない計画設定やメンバーとの意識共有が必要になりそうです。
製造業C社「シェアードサービス会社を設立し業務効率化を実現」
C社では、収益の柱であった中核事業の急激な業績悪化によりBPRを導入しました。C社では新たに中期経営計画を策定し、構造改革を実施しました。競合企業よりも販売費・管理費比率が高い状況に注目し、業務効率化と組織力強化をキャッチフレーズとして重点的な取り組みを始めました。
具体的には、グループ全体の間接業務の効率化を目指し、総務や人事の業務をおこなうシェアードサービス会社を設立しました。いまでは、事業会社のほとんどの総務機能をシェアードサービス会社に移管しています。定型的な業務を集約し、標準化することで効率化する工夫もおこないました。業務内容によってはアウトソーシングを活用することで、より一層のコスト改善を進めていくようです。この事例は、組織構造を変えて効率化できた成功例といえるでしょう。
総務省・三菱UFJリサーチ&コンサルティング「民間企業等における効率化方策等(業務改革(BPR))の国の行政組織への導入に関する調査研究」より
まとめ
BPRとは、業務内容やフロー、組織構造やサービス展開などのビジネスプロセスを根本から見直すものです。BPRで既存の業務・組織の課題を発見し、変革することで企業のさらなる発展を実現しましょう。まずは既存業務の見直しをおこない、現代に適したビジネスプロセスの検討や最新ソリューションの調査から始めてみてはいかがでしょうか。
この記事の執筆者:ホシ(プロモーショングループ)
新卒でドリーム・アーツに入社
お客さまのサービス利用立ち上げ支援を行う部門から現在の部門へ異動
専門知識がない方にも分かりやすい記事の作成を目指す